ヨーロッパでベストセラーの「存在の耐えられない軽さ」が素晴らしすぎる

「凄い頭良さそうな大学院生と話す機会があったから、今までの人生で一番君の人生に影響を与えた本を教えて、って言ってみた。そしたらこれを勧められたよ。」

ある友人と話していた時にこんな形で1冊の本を教えてもらいました。

存在の耐えられない軽さ

なんとも興味深いタイトル。検索してみると、もうどのレビューを見ても高評価。Amazonの評価が平均4.7になってたりするからもう驚きです。恋愛小説の体裁を取っているが、実はその枠を超えてもっと本質的ななにかを伝える本なのだそう。気になって購入してみたところ、予想以上でした。

◆自分の存在ってこんなに軽かったの?


Life is very heavy to me,
and it is so light to you.
I can't bear this lightness, this freedom.
I'm not strong enough.
(テレザがトマーシュに宛てた手紙より抜粋)

優秀な外科医のトマーシュは浮気性、というかセックス依存症。田舎から自由を求めてトマーシュと結婚したテレザはトマーシュ依存症。トマーシュの浮気相手で画家のサビナは不幸依存症。そのサビナの新しい恋人であるフランツは自己愛依存症。幼い頃に父と別れたトマーシュの息子は、父性愛依存症。

自らにとっての本当のことは何か、彼らはみんながみんな、それぞれのやりかたで見つけようとします。そしてなんとか分かってきたことは「自分の存在ってこんなに軽かったの?」という絶望。

この話は有名な作家であるミラン・クンデラの書く恋愛小説です。1969年に始まるチェコ民主化運動“プラハの春”を題材にしているのですが、彼の日体験をベースとした歴史的背景や社会的背景を詳細に描きながら、この境地に至るまでの描写が詳細に描かれています。

物語は後半でそれぞれの登場人物の精神的な探究の目的物へと一気に収束していくのですが、それが絶望だと分かった時の彼らの精神状態は、軽く読み流せるではなかったです。


◆こんなに重たいテーマもない


ストーリーだけ聞けばとんでもなくチャラい作品だと誤解するでしょう。特にクンデラのこの作品は映画化されていて、挿絵もとんでもなく官能的。ミラン・クンデラの経歴と、作品背景を知らなければ、もしかして読まなかったという人もいるかもしれない。しかしそれは全く事実と異なります。この作品は恋愛とは何か、人生とは何か、という極めて重いテーマにつき、読者に答えを迫る重い小説でした。このテーマは、考えるに避けて通れず、向き合ってもなかなか解決出来るものではありません。そんなただの"チャラい"テーマなのだったら、たくさんの人が"付き合った人と別れる"という荒唐無稽なことを経験するはずもない。藤本義一が「人生は己を探す旅である」といっていたけれど、苦しくとも自分の内面に向き合い続けることは必要で、それが人生を濃厚なものにしていくというのがよく分かる本です。そういう意味では、過去に大ベストセラーになった理由もよく分かります。この読後感の重さは、なかなか味わえない、名著だと思います。